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名古屋地方裁判所 昭和40年(行ウ)16号 判決 1971年10月29日

名古屋市北区上飯田通一丁目三番地

原告

淡路屋エミ合名会社

右代表者清算人

恵美龍雄

右訴訟代理人弁護士

小久保義昭

名古屋市北区金作町四丁目一番地

被告

名古屋北税務署長

高橋多喜司

右指定代理人

服部勝彦

大榎春雄

下畑治展

斉藤清光

主文

名古屋東税務署長が昭和三八年六月二七日付でなした原告の昭和三五年六月二四日から昭和三六年二月二八日までの法人所得金額金六三、二七八円、法人税額金二〇、八五六円とする再更正決定のうち、法人所得金額金二六、五八五円、法人税額金八、七四五円を超える部分をいずれも取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は名古屋東税務署長が昭和三八年六月二七日付原告に対してなした原告の昭和三五年三月一日以降同年六月二三日までの法人所得金額金五、八六七、〇八三円、同法人税額金二、一九六、一三〇円、過少申告加算税金一〇九、八〇〇円の更正及び加算税の賦課決定処分並びに昭和三五年六月二四日以降昭和三六年二月二八日までの法人所得金額金六三、二七八円、同法人税額金二〇、八五六円の更正処分をいずれも取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として

(一)  自昭和三五年三月一日至同年六月二三日事業年度(昭和三五年度上半期)分について。

1  原告は昭和三五年八月九日名古屋東税務署長に対し右事業年度の欠損額金一〇五、五一八円とする法人税確定申告書を提出した。

2  右名古屋東税務署長は課税標準たる所得金額五、八六七、〇八三円、法人税額金二、一九六、一三〇円とそれぞれ更正し、過少申告加算税金一〇九、八〇〇円と決定し、昭和三八年六月二七日原告に通知した。

3  原告は右更正決定に対し昭和三八年七月二七日右名古屋東税務署長に異議申立をした。

4  右名古屋東税務署長は右異議申立書に不備な点があるとして右異議申立却下決定をなし、昭和三八年九月一二日原告に通知した。

5  原告は右更正決定に対し昭和三八年一〇月一一日名古屋国税局長に審査請求をした。

6  右国税局長は原処分庁のなした異議申立却下決定は相当でないが、原処分たる更正決定は適法であるとして審査請求棄却の裁決をなし、昭和四〇年一月一二日原告に通知した。

(二)  自昭和三五年六月二四日至昭和三六年二月二八日事業年度(昭和三五年度下半期)分について。

1  右事業年度につき原告は無申告であつたので名古屋東税務署長は昭和三六年一二月二七日原告に対し課税標準たる所得金額を零とする決定をしたが更に調査のうえ右決定にかかる所得金額を金六三、二七八円、法人税額を金二〇、八五六円と再更正処分をなし昭和三八年六月二七日原告に通知した。

2  原告は右再更正に対し昭和三八年七月二七日右名古屋東税務署長に異議申立をした。

3  右名古屋東税務署長は右異議申立書に不備な点があるとして異議申立却下決定をなし、昭和三八年九月一二日原告に通知した。

4  原告は右再更正処分に対し昭和三八年一〇月一一日名古屋国税局長に審査請求をした。

5  右国税局長は原処分庁のなした異議申立却下決定は相当でないが、原処分たる更正処分は適法であるとして審査請求棄却の裁決をなし、昭和四〇年一月一二日原告に通知した。

(三)  昭和三九年七月一日大蔵省令第四二号大蔵省組織規定の一部改正により原処分庁たる名古屋東税務署長の本件に関する権限は被告に承継された。

と述べた。

被告は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実を認め、被告の主張として

第一  名古屋東税務署長のなした本件各事業年度の更正所得金額の計算は次のとおりである。

(一) 昭和三五年度上半期分

1  (原告申告の当期欠損金) △金一〇五、五一八円

2  (加算)

(1) 未収入金もれ 金一、七〇四、七四九円

(2) 寄付金の損金不算入額 金四、二九六、三五二円

(3) 加算小計 金六、〇〇一、一〇一円

3  (減算)

(1) 土地勘定過大 金二八、五〇〇円

(2) 減算金額小計 金二八、五〇〇円

4  (差引所得金額) 金五、八六七、〇八三円

(二) 昭和三五年度下半期分

1  (原告申告の所得金額) 無申告

2  (加算)

(1) 寄付金の損金不算入額 金二、三七五、九二一円

(2) 加算小計 金二、三七五、九二一円

3  (減算)

(1) 未納事業税 金六三九、〇四〇円

(2) 建物除却額 金一、六六六、九六八円

(3) 減算小計 金二、三〇六、〇〇八円

4  (差引所得金額) 金六九、九一三円

第二本件課税の根拠内訳

(一) 昭和三五年度上半期分

1  未収入金もれ(加算) 金一、七〇四、七四九円

原告がその所有にかかる名古屋市北区上飯田南町一丁目一五番地乃至一八番地の宅地合計七〇〇坪を昭和三五年六月一〇日みかど交通株式会社(現在みかどビル株式会社に商号変更)へ金一、七〇四、七四九円で譲渡したので右代金を未収入金として計上すべきであるのに原告の決算において未計上となつていたので加算した。

2  寄付金の損金不算入額(加算)金四、二九六、三五二円

(1) 右土地の右譲渡時たる昭和三五年六月一〇日における時価は金八、六八〇、〇〇〇円とするのが相当であつてみかど交通に対する原告の前記譲渡代金は右時価に比して著しく低廉であるところ、右譲渡時において原告会社は代表者恵美龍雄およびその親族を主たる出資者とする旧法人税法(昭和二二年法律第二八号、昭和三四年法律第二三号)第七条の二に定める同族会社であり、みかど交通も原告と代表者を同じくする関係会社であつて、原告の右譲渡行為は同族会社なるが故になしうる行為であるから旧法人税法第三一条の三による同族会社等の行為または計算の否認を適用したものである。そしてその計算内容は次のとおりである。即ち右譲渡時において本件土地上には原告会社所有別紙目録記載の建物が存在したので右土地に対する右借地権相当額を金二、六〇四、〇〇〇円と算定し、その価額と前項記載の原告の譲渡価額たる金一、七〇四、七四九円との合計額金四、三〇八、七四九円を前記本件土地の時価より減算した残額金四、三七一、二五一円を原告がみかど交通に贈与したものと認め、右贈与額を旧法人税法第九条第三項の寄付金と認定したうえ、同法施行規則第七条の寄付金の損金算入限度額を算出し、次表のとおり限度額金七四、八九九円を超える金四、二九六、三五二円を原告の法人所得に加算した。

<省略>

(2) そして本件土地の右譲渡時の正当な時価が金八、六八〇、〇〇〇円であると算定した根拠は次のとおりである。即ち本件土地は名古屋市内に所在する市街地で地理的には交通至便な個所に所在するが被告は本件土地の売買実例および不動産周旋業者の意見等を参酌して算定したものであつて、右不動産周旋業者の本件土地の譲渡時における更地価額の評価は次表のとおりでその平均価額坪(三・三〇平方米)当り金一二、四〇〇円を基礎としてまず更地価額を算出した。

<省略>

また売買実例としてはみかど交通が昭和三五年八月一八日本件土地の隣接地北区上飯田通一の三、同一の四の宅地一七九坪を坪(三・三〇平方米)当り金四六、七七〇円で購入している。そして右時価評価が適正なことは名古屋地方裁判所昭和三九年(ワ)第一、五三〇号債権取立事件における裁判所の命じた鑑定人の評価によつても本件と同一物件につき昭和三七年七年三一日現在における評価額は坪(三・三〇平方米)当り金三八、〇〇〇円とされているので財団法人日本不動産研究所調べによる地域別六大都市市街地価額推移指数表による昭和三五年六月一日現在の当該土地の価額は坪(三・三〇平方米)当り金三八、〇〇〇円×=金一九、二二〇円となること、また本件土地は昭和三七年七月二八日みかど交通から名古屋市開発公社へ坪(三・三〇平方米)当り金七〇、〇〇〇円で売却されているから同じく右指数表によれば昭和三五年六月一日現在の本件土地の価額は坪(三・三〇平方米)当り金七〇、〇〇〇円×=金三五、四〇六円となることからも明らかである。

(3) 次に本件土地の借地権相当額の計算は名古屋国税局作成の昭和三五年分相続財産評価基準中の借地権の部に定める基準および精通者の意見によれば借地権割合は三〇パーセントと認められる。従つて本件土地の係争時の借地権価額は金二、六〇四、〇〇〇円となるものである。

(4) 本件土地に原告主張のとおりの根抵当権が存在しその被担保債権額が原告主張のとおりであることは認めるが、抵当権の存在は土地の時価評価になんら影響するところはないから時価評価に際して被担保債権額を控除すべき根拠はない。

また抵当権が附着することに伴う危険ないし不安はそれを見越損金とするには蓋然性において欠けており権利確定主義を原則とする税法上これを損金として認める余地はない。

3  土地勘定過大(減算) 金二八、五〇〇円

原告は本件土地を譲渡したのにその決算において土地勘定として右金額を計上していたので原告の法人所得より減算した。

(二) 昭和三五年度下半期分

1  寄付金の損金不算入額(加算) 金二、三七五、九二一円

昭和三五年度上半期において本件土地が原告からみかど交通に譲渡された結果、本事業年度においては本件土地の所有者はみかど交通、地上建物は原告の所有するところとなり、更に昭和三五年一二月右建物は取殷された。かように他人所有地上の建物が取り殷わされた場合には地主より建物所有者へ立退料あるいは借地権対価相当額が支払われるのが社会通念であるのに原告とみかど交通との前記関係上右支払がなかつたため前事業年度と同様に旧法人税法第三一条の三を適用し原告のなした借地権の無償譲渡行為と計算を否認し、借地権の譲渡があつたものと認めたもので、その計算内容は次のとおりである。即ち当期中に取り殷しのあつた建物四二二坪七〇(一坪=三・三〇平方米)のうち原告所有部分は三八六坪一〇(一坪=三・三〇平方米)であつたので、別表一の(1)により算出した金二、三七八、四九三円を借地権の譲渡価額と算定のうえ、右を原告みかど交通に対する贈与と認めて、右贈与額を旧法人税法第九条第三項の寄付金と認定のうえ同法施行規則第七条の寄付金の損金算入限度額の計算を行い別表一の(2)のとおり限度額を越える金二、三七五、九二一円を原告の法人所得に加算した。

そして右の借地権の取扱は前記の昭和三五年度上半期分中の本件土地の正常取引価額算定に際し更地価額から借地権価額を控除したことと表裏の関係にあるのであつて、税法上の借地権概念は借地に伴う権利の得喪より生ずる経済的価値を対象とするものであるからその有償無償は問わないものである。

2  未納事業税(減算) 金六三九、〇四〇円

前事業年度分の更正額を所得金額として算定し原告の法人所得より減算した。

3  建物除却損(減算) 金一、六六六、九六八円

本件土地上の原告所有建物は前記のとおり取り殷した結果原告が建物の簿価として計上している右金額を原告の法人所得より減算した。

と述べた。

(一) 原告は被告の主張第一の点を争い、但し本件更正処分の内訳および計算関係としてはこれを認め、

(二) 同第二(一)の1(未収入金もれ)の未収入金を計上しなかつた点を認め、被告主張の昭和三五年六月一〇日付原告のみかど交通への本件土地売買は単にみかど交通が陸運局に対しタクシー営業免許申請をするのに不動産を所有している必要があつたため譲渡の形式をとつたもので真実売買の意思のない通謀虚偽表示で無効のものであり、真実売買されたのは代金精算の済んだ昭和三七年八月六日である。従つて未収入金もれを計上する必要も原告にはなかつたものである。

(三) 同第二(一)の2(寄付金の損金不算入額)のうち、原告が被告主張の同族会社であることを認め、その余の点を否認し、前記のとおり被告主張の本件土地売買は通謀虚偽表示で無効のものであり売買代金とする金一、七〇四、七四九円もとりあえず法務局で所有権移転登記申請の受理せられる最少限度としたまででそもそも低廉譲渡の問題は生じないものである。

仮に本件土地を被告主張の日時に売却したとしても低廉譲渡ではない。即ち

(1) 本件土地には新興繊維工業株式会社および株式会社新興社の株式会社東海銀行に対する債務のため各根抵当権が設定され、昭和三五年六月一〇日現在の右被担保債務は、新興繊維工業株式会社分につき合計金二五、二四五、〇五七円、株式会社新興社分につき合計金三二、八二八、七九九円であつたが原告は右各債務につき重量的債務引受をなし従つて連帯債務者の地位にあつた。そして本件土地譲渡にあたりみかど交通も右各債務を重量的に引受けたが、新興繊維工業株式会社、株式会社新興社および原告とも無資力であつたため、みかど交通が株式会社東海銀行へ右各債務を弁済した際取得する求償権はいずれも事実上行使不能の状態にあつた。

従つてかような場合原告のみかど交通に対する本件土地譲渡価額を算定するに当つては当然右被担保債務額だけ時価より控除すべきであつて、そうすると本件土地はおよそ無価値に等しいもので低廉譲渡ということはない。

(2) また少なくとも右根抵当権の存在は本件土地の瑕疵として時価算定にあたつて考慮されるのが通常であつて時価から右被担保債務を控除すべきが社会通念である。

(3) 被告が借地権割合を三〇パーセントとした根拠は国税局内部の準拠基準にすきず、むしろ本件土地の借地権割合は五〇パーセントとするのが相当である。なお別紙目録記載の建物のあることは認める。

(四) 同第二(一)の3(土地勘定過大)の点を認め、

(五) 同第二(二)の1(寄付金の損金不算入額)の点を否認し、借地権譲渡対価を課税対象とすることは昭和三五年頃には税務上なされていなかつたもので本件にのみ課税することは租税負担公平の原則に反する。また原告がみかど交通へ本件土地を譲渡する際には既に地上建物を収去することは当事者間で予定されていたもので、右譲渡後の土地の利用関係が賃貸借であるということはできず、単なる黙示の使用貸借関係であるから借地権相当額の対価が支払われる理由はおよそない。

(六) 同第二(二)の2(未納事業税)の点は、前事業年度の所得金額を争うから否認する。

(七) 同第二(二)の3(建物除却損)については建物の簿価が金一、六六六、九六八円であることを認めるがその余の点は争う。建物除却損としては敷地占有放棄価額すなわち借地権価額も併せて考慮さるべきで地価の少なくとも四分の一程度も法人所得より減算すべきである。

と述べた。

証拠として、原告は甲第一ないし第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四ないし第一八号証、第一九号証の一、二、第二〇号証の一、二、第二一ないし第三二号証を提出し、証人重山昇の証言、原告代表者本人尋問の結果と鑑定人山田幸正の鑑定の結果をそれぞれ採用し、乙第一ないし第三号証、第六ないし第九号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、被告は乙第一ないし第七号証、第八号証の一ないし四、第九、第一〇号証、第一一号証の一ないし三を提出し、証人長江鋭雄の証言を援用し、甲第一ないし第五号証、第一五号証、第二〇号証の一、第二一、第二四号証、第二六ないし第三〇号証、第三二号証の各成立は不知と述べ、その余の甲各号証の成立を認めた。

理由

請求の原因たる事実は当事者間に争がなく、被告の主張事実第一のうち本件更正処分の内訳とその計算関係の点は被告の立場に立脚する限りその通りであることは原告の争わぬところである。而して前同第二(一)1の未収入金を計上しなかつた点は当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一号証、甲第六号証、第八ないし第一二号証と弁論の全趣旨によると同第二(一)1の点を認定しうべく、右が原告主張の通謀虚偽表示であつた旨の主張事実に副う原告の各証拠は右各証拠特に甲第一二号証とこの点に関する原告の主張自体に徴して措信しがたい。前同第二(一)2(1)、(2)のうち原告が被告主張の同族会社である点とみかど交通株式会社が同関係会社である点は当事者間に争がなく、証人長江鋭雄の証言により真正の成立を認めうる乙第四、第五号証、同証言、成立に争のない乙第九号証に鑑定人山田幸正の鑑定の結果、成立に争のない甲第一四、第一六号証および証人重山昇の証言と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一一号証の一、二、三を綜合すると被告が算定評価した金八、六八〇、〇〇〇円(三・三〇平方米当り金一二、四〇〇円)の算定評価額は、売買等時本件土地上に原告会社所有の別紙目録記載の建物が存在し(この点につき当事者間に争がない)、いわゆる建付地であつたことを充分考慮に入れても、きわめて低い評価額と解せられこそすれ高い評価であるとは解されず、結局右評価額は相当であると認められ、右認定に反する証拠はない。そして前記の如く本件土地上にその売買当時原告所有の建物の存在したことは当事者間に争いがなく、被告が右建物所有に関する借地権相当額を金二、六〇四、〇〇〇円(前記認定の土地の時価金八、六八〇、〇〇〇円の三〇パーセント相当)とすることは被告の自ら主張するところであり、弁論の全趣旨から真正に成立したものと認められる乙第一〇号証、第一一号証の一、二、三、によると被告の計上せる右借地権相当額は相当と認められ、甲第一九号証の一、二は未だ右認定を覆えすに足らず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで本件土地につき原告主張通りの根抵当権が存在し、その被担保債権額が原告主張のとおりであることは当事者間に争がないが原告がその主張するような重畳的債務引受をした点を認めるに足る証拠はない。本来抵当権は目的物の有する担保価値を把握し、被担保債権の優先弁済を受けることをその本質とするもので、目的物の使用価値ないし交換価値に直接影響すべき性質のものではない。抵当権の附着した物件の譲渡に際しては、抵当物件の時価が抵当債務額以上の場合に抵当権者・債務者(所有者・譲渡人)・譲受人(第三取得者)の三者の協議により売買代金のうち抵当債務額だけを抵当権者に支払い、残額を債務者に交付し抵当権設定登記を抹消して譲受人に所有権移転登記をすればよく、また抵当債務の弁済期が未到来で抵当権をそのままにして売買する場合にも、売買代金から抵当債務額を控除した残額を債務者に支払い、抵当債務を譲渡人が引き受ける方法が実際取引上最も普通に行われていることも事実である。しかし、右抵当権付物件の売買取引の実際を前提とするのも、それをもつて目的物件が抵当債務額を控除した残額の交換価値しか有しないものと解することはできない。なぜなら右経済界の取引の実情は、抵当権が実行された場合、第三取得者が不測の損害を豪らないように売買代金の授受に際して抵当権そのものの消滅を図り、あるいは第三取得者自らの債務に替えるもので、これはいわば代金持受ないし決済方法に関するものであつてその際譲渡人(債務者・所有者)に支払われる金額をもつて目的物件の交換価値を具現したものと解することはできず、逆に譲受人(第三取得者)が抵当権者に抵当債務額を交付し、あるいは抵当債務を引き受けること自体抵当債務額を控除した額をもつてその交換価値と解する立場からすれば説明しがたく(そのようなことをする必要がないはずだから)矛盾するものと解される。しかも抵当不動産の時価が抵当債務を完済しえない場合にも第三取得者は債務者の弁済を信頼しあるいは担保を供させるなどして時価に近い価格で売買が行われることも決して絶無ではなく、そうだとすれば目的物件に抵当権が附着していてもそれによつて交換価値が影響されるものと解することはできなく、この点に関する原告の所説はいずれも理由がない。

以上認定説示の事実等に徴すると原告のみかど交通株式会社に対する本件土地の売却代金は時価に比して著しく低廉であることが明らかである。これは原告が旧法人税法(昭和二二年法律第二八号、昭和三四年法律第二三号)第七条の二に定める同族会社であり、かつみかど交通株式会社も原告と代表者を同じくする関係会社であるところから初めてかつ容易になし得た行為であると認められ、右計算をそのまま容認した場合には原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となることが明らかである。かくして被告が旧法人税法第三一条の三の規定に従い、原告のなした計算を法人税の計算上否認し、前記認定の本件土地の譲渡時における時価金八、六八〇、〇〇〇円から売買代金金一、七〇四、七四九円と借地権相当価額金二、六〇四、〇〇〇円を控除した残額金四、三七一、二五一円は原告がみかど交通株式会社にこれを贈与したものと認めたのは相当であり、被告が旧法人税法第九条第三項に定める寄付金として同法施行規則第七条の課税基準に従つて原告の法人所得の計算を行ない(その計算内容は被告主張のとおり)で前記第二(一)2の寄付金の損金不算入額の加算をなした点は法規に照らし適法なものと認められる。同第二(一)3の点は当事者間に争がない。よつて以上の各認定事実によると原告の右上半期事業年度に関する被告の更正決定は正当である。同第二(二)1の点については本件土地が原告からみかど交通株式会社に対し売却されたことは前記認定の通りであり当時右土地上に別紙目録記載の建物が存したことは当事者に争いがなく、それによれば本件土地上の原告所有の工場・居宅等の建物敷地の合計が三八六・一〇坪、恵美龍雄個人所有の居宅の敷地が三六・六坪(一坪は三・三〇平方米)であることが認められ、証人重山昇の証言ならびに弁論の全趣旨によると昭和三五年一二月原告は任意にその所有建物を取り毀して収去したことが認められる。かようにみかど交通株式会社所有の本件土地に建物を所有していた原告がその所有建物を任意に収去してその敷地を更地にさせたことは、原告から土地所有者たるみかど交通株式会社に対して借地権ないし借地権相当価格の無償譲渡がなされたものと解すべきことは被告所論のとおりである。そして右原告による借地権相当価格の無償譲渡はみかど交通株式会社の他人所有の建物の存在を伴う土地の所有権を何らの負担もなく全く瑕疵のない更地の権利たらしめたこととなり、結局原告はその借地権相当額をみかど交通株式会社に贈与したこととなり、これは経済取引上純経済人の選ぶ行為としては甚しく合理性を欠き異常な行為計算であると断ぜざるを得ず、これは前記の如く原告が同族会社でありかつみかど交通株式会社がその関係会社であるところから初めてかつ容易になし得た行為計算であると認められ、これをそのまま容認した場合には原告会社の法人税の負担を不当に減少させる結果となることが明らかであり、成立に争のない乙第六、第七号証によると、昭和三五年当時において借地権を実務上課税対象としていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そこで被告が旧法人税法第三一条の三を適用して右借地権ないし借地権相当の権利の無償譲渡行為と計算を否認し借地権無償譲渡による贈与と認定したことは適法であり、その計算内容も後記第二(二)2、3の認定事実をも合せ考えると被告所論のとおり(別表一の(1) (2)を含む)となり、結局右借地権ないし借地権相当の権利の譲渡価額は計算上金二、三七八、四九三円となり、これを原告がみかど交通株式会社に贈与したものと認めるのを相当とし、被告が右贈与額を旧法人税法第九条第三項の寄付金として同法施行規則第七条の寄付金の損金算入限度額の計算を行ない、別表一の(2)のとおり限度額を越える金二、三七五、九二一円を原告の所得に加算すべきことになり、もつて被告が同額を寄付金の損金不算入額として法人所得として加算計上した点もなんら違法の廉なく適法なものと認められる。

次に前同第二(二)3については本件土地上の原告所有の建物の帳簿上の価格が右金一、六六六、九六八円であることは当事者間に争がなく、原告が右建物を取毀し収去して滅失させたことは前記認定のとおりである。とすればさらに原告のいう敷地占有放棄価額すなわち借地権相当価格につきあらためて損金は計上すべき必要のないことはきわめて明らかであり(損金に計上すれと一度譲渡消滅したものを更に二重に評価する誤りをおかすこととなる。)、原告の主張は相当でない。結局この点についても被告に違法の廉はない。

次に前同第二(二)2の点については前記前事業年度(昭和三五年三月一日以降同年六月二三日まで)の更正決定による更正額(金五、八六七、〇八三円)を所得金額として計上し、右金額を課税標準額として地方税法(昭和二五年法律第二二六号)第七二条の二二第一項、第三項により事業税を算定すると金六八二、三六八円となる。そこで前記認定した寄付金の損金不算入額金二、三七五、九二一円から同じく建物除却損金一、六六六、九六八円と右事業税額金六八二、三六八円を控除減算した残額金二六、五八五円が原告の昭和三五年度下半期事業年度における所得金額となり、右金額金二六、五八五円を課税標準額として法人税法(昭和二二年法律二八号)第一七条第一項により法人税額を算定すると金八、七四五円となり、結局昭和三五年下半期事業年度(昭和三五年六月二四日から昭和三六年二年二八日まで)の原告の法人所得金額は金二六、五八五円、同法人税額は金八、七四五円となつて右各金額を越える部分につきなした被告の同事業年度分に関する更正処造は不適法であることが明らかである。よつて原告の前記下半期事業年度に関する被告の更正決定は所得金額金二六、五八五円、法人税額金八、七四五円をそれぞれ越える部分を不適法として取消し、他には本件各更正決定を取消すべき瑕疵も認められないので原告のその余の請求を失当としていずれも棄却し、民事訴訟法第九二条但書により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小沢三朗 裁判官 日高乙彦 裁判官 長島孝太郎)

別紙

目録

<省略>

別表一の(1)

借地権譲渡価額の計算

<省略>

別表一の(2)

寄付金損金算入額の計算

<省略>

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